課題3:ヒッグス粒子の生成断面積と崩壊比を計算する

home , 準備 (linux | editor | X window | ROOT | login | remote ROOT | Geant4) , 課題(1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6)updated 2011.11.20

[1] 概要

  • 標準ヒッグス粒子は標準理論の中で唯一見つかっていない粒子である。理論では質量は正確には予言できないが100 GeVから1000GeVに存在するとされている。標準ヒッグス粒子は質量さえ与えられれば、その振る舞いを計算できる。

  • LHCでのヒッグス粒子の生成は主に4つの過程がある。簡単な解説をここ(pdf)の載せた。

    [2] ヒッグス粒子の生成断面積の計算(その1)

  • ここでは4つのヒッグス生成メカニズムのうち最大のグルーオン融合による生成断面積を計算してみる。
    1. ヒッグス粒子は陽子中のクォークやグルーオン(総称してパートン)同士が衝突して生成されるので、それらの運動量分布(課題2)を計算に入れる必要がる。これはこの説明にあるように Parton Luminosity L(τ) で表わされる。

    2. 素過程のgluon+gluon -> H の生成断面積は逆過程の H -> gluon+gluon の崩壊幅が分かれば計算できるーー>断面積の式。計算に必要な関数は I2, alphaSにある。

    3. 課題2で得られた Q2=10000 GeV2 でのPDF MSTW_10000.txt を用いて、上の計算に必要な parton luminosity L(τ) を計算するプログラム partonLuminosity.cxx を作る。重心系エネルギー 14 TeV での陽子陽子衝突で質量 140 GeV のヒッグス粒子を作る時、Drell-Yan変数 τ= mH2/ECM2 = (140/14000)2 = 0.0001 程度である。

    4. Parton Luminosityを使って 7, 14 TeV のpp衝突におけるグルーオン融合によるヒッグス粒子の生成断面積を mH = 100-1000 GeVで計算しプロットする。(このプログラムhiggs_gg.cxxの main() 部分にコードを追加すれば計算出来る)。結果をhiggs_gg_14.txtのようにテキストファイルに落してから、プロットマクロplot_higgs_gg.Cを使って右図のようなプロットが得られる。

    5. 提出課題3a:MSTWとCTEQ66 の2種類のPDFを使った時のgluon fusionによるHiggs生成断面積を重ねてプロットする。パートン分布による違いがわかるはず。

    6. 以上はQCDの最低次の計算である。高次の補正も入れると生成断面積はこのように約2倍になる。他の生成過程も含めた生成断面積の最近の計算結果はこの様になる(文献 arXiv:1101.0593より)。
    (注)以上の方法では簡単のため10000 GeV2 で固定したグルーオン分布を使ったが、実際は Q2 = mH2 なのでmHを変えたらQ2も変えなくてはならない。

    [3] ヒッグス粒子の崩壊比の計算(hdecay)

    1. Michael Spiraのページの HDECAY をクリックして開いたページからhdecay.in, hdecay.tar.gz, makefile, slha.in を作業directoryにダウンロードする。

    2. tar -zxvf hdecay.tar.tarで解凍するとdmb.f, elw.f, feynhiggs.f, haber.f, hdecay.f, hgaga.f, susylha.f ができる。

    3. makefile.txtとなってたら名前を makefile に変更した後に、makeでコンパイルすると run.exe ができる。

    4. 入力データファイル hdecay.in の中を変えて、 HIGGS = 0(標準モデルHiggsを指定)、MABEG=100.D0、MAEND=500.D0、NMA=81(分割数) とセットする。

    5. ./run.exe で計算を実行すると、br.sm1, br.sm2 などの出力ファイルが数分後にできる。(註:最新versionでは答えが出ない場合は、古いversion(hdecay.in, hdecay.tar.gz, makefile)で試してみる。)

    6. ROOTマクロ(例:plot_hdecay.C)でbr.sm1, br.sm2を読むと右図がでるはず。

    7. 提出課題3b:上のプロットにH→b+bbar, H→γγを追加する。
  • SUSY Higgsの場合なども計算できるーーー>HDECAY_manual.pdf参照。
  • ヒッグス粒子の崩壊過程の簡単な解説をここ(pdf)に載せた。

    [4] ヒッグス粒子の生成断面積の計算(その2)

  • より正確で高次の補正も考慮した生成断面積の計算方法はウエブに載っている。例えば Michael Spiraのページからプログラムをダウンロードできる。以下はグルーオン融合過程の生成断面積の計算例である。
    1. 上記のWebページの中からグルーオン融合過程のプログラム(HIGLU)をクリックする。 自分の作業directoryに higlu.in, higlu.tar.tar, makefile をコピーする(コピー過程で.txtなどがついたら.txtをおとす)。

    2. しかし、2011年1月現在のHIGLUをダウンロードして進めると途中でエラーが出てしまう。ここではその代りに2年前のプログラム higlu.tar.gzをダウンロードしてください。

    3. tar -zxvf higlu.tar.gz で解凍すると Cteq61Pdf.f, cteq6d.tbl, cteq6l1.tbl, cteq6l.tbl, cteq6m.tbl, feynhiggs.f, higlu.f, sub.f, makefileなどが入ったdirectoryのhiglu/が作られる。

    4. cern libraryからcernlib.tar.gzを、適当なdirectoryをつくって(たとえば/home/cernとする)そこにダウンロードする。tar zxvf cernlib.tar.gzで解凍・展開すれば/home/cern/libが作られるはず。その上で CERN=/home/cern/libという一行をmakefileの最初の方に追加する。

    5. directory higlu/に入ってmakeとコンパイルすると run.exe が出来る。

    6. ./run.exe で実行すると、higlu.inのパラメーター値を読み込んで計算が行われ(少し時間かかる) higlu.out が作られる。これから mH=120 GeV のときのgluon-fusionの生成断面積はSIG_LOで15.101, SIG_NLOで36.3836 pb(picobarn=10-36cm-2)であることがわかる。ちなみにLO(lowest order, tree diagramのみでloopなし), NLO(next to lowest order) はQCDの次数を表している。

    7. run.exeが読み込む入力ファイル higlu.in にはいろいろな入力パラメーターがセットされている。例えばtop quarkのmassはmtop=178.0 GeVになっている。最近の値であるmtop=172.6 GeVに変えるとSIG_NLO=36.5060 pbと変化することがわかる。

    8. higlu.in の中で指定されている M_HIGGS を変更すればいろいろなヒッグス粒子の質量での生成断面積が計算できる。

  • 同じプログラムを使って生成断面積のヒッグス質量依存性を計算する:
    1. 入力ファイル higlu.inの中にセットしてあるヒッグス質量を書き換える準備のため、オリジナルのhiglu.inを cp higlu.in higlu.in0 とコピーしておく。

    2. 上記にある run.exe をmH=100~500GeVで走らせるためにシェルスクリプト higgs.sh を作成する。(この中で使っている sed はLinuxのコマンドで文字列の置換や行の削除を行う。)

    3. source higgs.sh & でbackgroung jobにして走らせる。jobが走っているかどうかはjobsでわかる。少し時間がかかるが、計算結果ファイル h_gg_cross.dat が作られる。

    4. マクロplot_higlu.Cをつくり、rootに入ってから.x plot_higlu.Cでマクロを実行すればこのプロットが出る。 最近の計算結果に近いはずである(がちょっと違う!調査中)。

    5. 課題3c:pp 7 TeVでのgg→H 生成断面積を計算し、14 TeVの断面積と重ねプロットする。7 TeVは青線で示す。