アトラス実験 / 解説 /
"現在"の素粒子物理学とLHC計画

1990年代、LEP、SLC、Tevatron実験等の成果により、標準理論は非常に高い精度で検証され、力の源がゲージ対称性(不変性)であることが示された。図1は現在の素粒子物理学の理解度を表しており、黒い影で覆われているものは未発見である。特に、図1の点線より左側が標準理論の世界を表している。標準理論において、未発見であるヒッグス粒子が物質(粒子)に質量を与える起源のため(自発的対称性の破れ)、この粒子の発見は標準理論を完成させるうえで非常に重要な課題である。

図1

図1の点線より右側の未発見粒子については、そもそも「超対称性」の存在自体がまだ実験的に確認されていない。超対称性とはボーズ粒子(標準理論ではゲージ粒子とヒッグス粒子)とフェルミ粒子(標準理論ではクォークとレプトン)を交換する基本的な対称性である。我々は自然がこの対称性を持つことを期待しており、その理由のひとつとして図2が示す「力の統一」の実現である。この図は超対称性を導入することで10の16~17乗GeV付近で力が統一されることを示している。 LHCにおいて、超対称性粒子の発見はTeV領域の新しい物理を切り拓くための最も期待されている新発見のひとつである。この発見は今後の素粒子物理学の歩んでいく方向を決める上で非常に重要な課題である。

図2

"現在"の素粒子物理学を"未来"へ大きく前進させるため、CERNはヒッグス粒子の確実な発見、及び超対称性などの標準理論を越えるTeV領域の新しい素粒子現象を発見を目的とする LHCの建設(LHC計画)を進めてきた。

以下にまとめると、アトラス実験では次の成果が期待されている。

  • 理論が予測する全領域で(標準理論)ヒッグス粒子の発見が可能
  • 数TeVまでの超対称性粒子の発見が可能
  • 量子重力や隠れた高次元空間(余次元)の発見が可能
  • 現在、我々はこれらの発見に関わる研究をより現実的な、実践的な視点から詳細に行っている。