概要
研究概要
本研究のゴールは、現代の素粒子物理学における最大の謎の一つであるヒッグス機構の全容を解明し、超対称性の兆候を捉えることで、標準模型の枠を超える現象を発見することです。標準模型は、真の物理法則の低エネルギー近似と考えられていますが、その先に何があるのかは未解明です。
究極的には、電磁気力、弱い力、強い力を統一的に記述する大統一理論など、1015 GeV以上のエネルギー領域でも成立する、より根源的な統一理論の構築を目指します。

ヒッグス粒子はすでに発見されていますが、その理解は依然として限定的です。物質を構成するフェルミオンの世代構造の起源はもちろん、ヒッグスポテンシャルの形も十分には分かっていません。また、ヒッグス場が理論的にどのような必然性をもって存在するのかも明確ではありません。素粒子間の相互作用がゲージ原理によって自然に理解できるのに対し、ヒッグス場は理論に「手で」組み込まれている側面があります。
そのため、既知のヒッグス粒子とは異なるヒッグス粒子や、超対称性に由来する新物理が、ヒッグス場の背後に隠れているのではないかと考えられています。ヒッグス場の全容解明は、今後10年から20年にわたり、素粒子物理学の中心的課題であり続けると考えられます。
そこで本研究では、国際的大型プロジェクトを主導できる人材を育成するとともに、測定器技術開発を推進し、次期エネルギーフロンティア実験として期待されるヒッグスファクトリー、さらにその先の計画を我が国が主導するための基盤を築きます。そのために、以下の3部門の研究を推進します。
物理部門
劇的に増大する高統計データを用い、AI等も活用しながら、精度と信頼性を高めた物理解析を主導します。
測定結果を不定性の小さい理論予測と詳細に比較することで、新物理の発見感度を高めます。
超伝導磁石部門
アルミ安定化NbTi線材の製造に必要な施設を整備し、関連技術に精通した技術者との協働により、アルミ被覆工程の再建を目指します。
その技術継承を進めつつ、ReBCOなどの新素材に対してもアルミ安定化技術の応用を試みます。放射線耐性を評価しながら、10Tを超えるモデル電磁石の開発・製造を進めます。
検出器部門
モノリシックピクセルセンサー(MAPS)の開発では、詳細なTCADシミュレーションにより、高い放射線耐性とゲインを両立するセンサー構造を追求します。試作品の製造後は、陽子線およびガンマ線照射試験により性能を評価します。
また、機械学習向け処理の実装が進む先進FPGAを活用したトリガー処理ボードの技術開拓を進め、その技術をMAPSに組み込むための検討も開始します。

本研究課題の特色
エネルギーフロンティア実験は、その規模の大きさから国際協力が不可欠です。一方で、世界中から多くの研究者が参画するため、研究の主導権をめぐる競争は非常に厳しいものがあります。したがって、研究を主体的に進め、日本の存在感を維持するためには、長期的なビジョンに基づく研究計画の策定と人材育成が不可欠です。
本研究では、LHC実験を主導してきたメンバーが、真空を支配するヒッグスポテンシャルの謎の解明と、超対称性の探索を進めます。さらに、若手研究者や外国人研究者を積極的に巻き込みながら次世代測定器技術の開発を進めることで、HL-LHC以降のエネルギーフロンティア計画において我が国が世界をリードすることを目指します。
「物理」「超伝導磁石」「検出器」の各部門には、次世代の中核を担う若手研究者を配置します。3部門が有機的に連携することで、若手研究者は幅広い研究に触れながら成長できます。
研究代表者らは、豊富な国際的人脈を活かして国内外の若手研究者を結集します。本プログラムにより国際的な素養を備えた若手研究者を育成し、その人材がヒッグスファクトリーなど将来のコライダー計画を主導することを目指します。

将来を担う研究者を育成
人材育成計画として、以下の2軸に立脚し、分野の将来を担う立体的な人材育成を進めます。
- 国際スクールの横断的な開催や、若手が新技術に独自性をもって挑戦できる研究プログラムを通じた、世界最先端の技術に挑戦する研究者の育成
- ものづくりから建設、新実験の運用までを幅広く経験し、多国籍の組織をリードする経験を蓄積する、最先端で活躍する素粒子実験研究者の育成
現行の実験にとらわれない長期的な視野のもと、学生・若手研究者のキャリアに応じた段階的な支援を充実させ、我が国が世界をリードする素粒子研究の将来像を実現します。
さらに、第3の発展軸として、次世代を牽引するグローバル人材の育成プログラムを提案します。これは、閉じた専門分野にとどまらない研究者育成、国際的素養を備えた広義の人材育成、そして国民全体の科学リテラシー向上など、分野横断的な融合型の取り組みです。
これら3つの計画を通じて、将来の素粒子実験(ヒッグスファクトリー)を国際的に先導する優秀な人材を幅広く輩出します。研究計画と若手の役割を明確に対応させ、最先端の学術成果を最大化しながら、段階的かつ発展的に活躍できる柔軟なキャリアパスを構築し、次世代ヒッグスファクトリーを牽引する真の国際人を育成します。
