寺門メモ 2004年12月17日第131回理事会 12月17日、欧州原子核研究機構(CERN)が開催されたところ、概 要以下の通り(我が方はオブザーバーとして、川本辰男東京大学素粒子物理国際研究セン ター助教授、当代表部より寺門一等書記官が出席)。 なお、議場において配布された資料等は至近の公信にて別途送付申し上げる。 1.アジェンダ(資料CERN/2585)中の議決事項は全て可決されたところ、我が方主要関 連事項の概要は以下の通り。 2.LHC計画の現状報告(資料CERN/2586) LHCについては、2007年夏に最初の衝突実験を行うとの当初スケジュールに沿って進 捗が図られている旨報告が事務局からなされた。 具体的には、最も高度な技術を要する装置(全長27kmのLHCリングにおいて高エ ネルギー陽子を円形軌道に維持するため使用される双極電磁石のためのcold mass)の 半分が既にCERNに搬入完了となっている。また、10月には、スーパー・プロトン・シ ンクロトロン(SPS)からLHCトンネルへ陽子を伝送する伝達経路の最初の試験が実施 され成功した。 他方、問題点としては、特に極低温(cryogenic)冷却液をトンネル内に供給するために 2003年から建設の進められていたシステムの部品に欠陥が生じていることが判明し、建 設作業の一時的な中断を余儀なくされたが、CERNと関連企業との密接な連携により、 10月には技術的問題点を克服した新たな部品の製造に漕ぎ着けることに成功し、11月か らは既設置の欠陥部品との交換作業を進められている。 事務局としては、LHC計画の2007年の実験開始を最重要課題と位置付けていることか ら、スケジュールの遅延を生じないために、いわば危機管理として複数の対応案を用意 しており、例えば、2006年におけるSPS加速器の稼動を停止させ、当該加速器に投入 されている人的資源を全てLHC計画へ振り向けることまでをもオプションの1つとして 検討していたが、現段階の予測としては、他の研究所から2~3ヶ月程度LHCのコミッシ ョニングに援助が得られればSPSプログラムを停止しなくても十分に当初計画の達成は 確保されるとの見方が示され、厳しい日程の中ではあるが、今後とも作業に遺漏なきを 期したいとの説明がなされた。 また、事務局からは、関係企業を含めた日本をはじめとするオブザーバー国からの LHC計画への貢献に対し、改めて謝意が表された。 さらに、あくまでも現段階での内部的な試算であるとしながらも、LHC実験計画の遂 行上、ATLAS、CMSなどで追加的な費用負担が予想され、外部資金の導入等の対応方策 が必要である旨事務局から説明がなされた。これについては、英・伊・米から、厳しい 時間的・資源的制約の中で鋭意努力を重ねるエイマー所長以下CERNの尽力を多とする ものの、財政面での懸念についてはより詳細な全体像(whole picture)を下にした十分 な議論が関係者間で必要であり、事務局において早急な対応案等の提示が求められたの に対し、エイマー所長からは、2005年3月を目途として本財政問題に関する説明資料の 提示を検討したい旨表明された。 2.SPSプログラム SPSプログラムは2004年に終了した。2005年にSPSの運転はない。2005年内に、当 該プログラムの結果を検討し(take stock)、2006年以降のCERNの固定標的プログラム の順位付け等の検討を行うこととする。 3.CLIC/ILC、LCG関連 エイマー事務局長から、CLICのfeasibilityを、予算・人員など限られてはいるが、2010 年までに見極めたいこと、ILCにも積極的に関与してきたいこと、さらには、ヨーロッパ におけるESGARD/CAREプロジェクト(http://esgard.lal.in2p3.fr/Project/Activities/Current 御参照)新たな加速器技術の開発にもCERNとして積極的に貢献したい旨表明があった。 また、LCGについては、エイマー事務局長からはEGEE(ヨーロッパのGRID開発プロ ジェクト)との協同関係について言及がなされるとともに、エンゲーレン副所長から、 Phase1(2001年から2005年)においては、予算は122百万スイス・フランで、CERN及び 外部のfunding agencyから提供され、開発研究としてCERNと外部研究所、計算センター などとの協同研究を実施すること、 Phase2 (production system 2006年から2008年)に おいては、予算は141百万スイス・フランであり、現在121百万スイス・フランまで確保 予定となっているが、残り20百万スイス・フラン調達せねばならず、funding agencyから は、更なる予算措置の検討のために計画のfull pictureの提示が求められている旨報告がな された。 4.CERN50周年記念式典(CERN/2591) 本記念式典及びオープン・デーに係るメンバー・オブザーバー国等の協力に対し、改 めて事務局から謝意が述べられた。(了)