寺門メモ

 12月18日、19日に欧州原子核研究機構(CERN)第260回理事会委員会及び第
126回理事会が開催されたところ、その概要は以下の通り(我が方はオブザーバー。近
藤敬比古高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所教授、坂場知行文部科学省研究
振興局量子放射線研究課機構係長、当代表部より寺門が出席)。
 議場において配布された作業文書等は至近の公信にて別途送付するとともに、本件会合
のプレスリリースを別FAX交信にて送付申し上げる。

1.理事会委員会におけるLHC計画の現状報告

(1)概況 
  ATLAS、CMS、 ALICE、 LHCbの実験は、すべて2007年のLHC開始時期に間に合う
スケジュールに従ってなされている。子細には、種々の困難に直面してはいるものの、実
験チームはそれらの困難を乗り越える努力を行い、解決策を見出しており、計画の体勢に
重大な影響をもたらすものではない。

(2)LHC計算機の現状
国際チームにより、LHC計算機グリッドの第1段階(LCG-1)は成功裏に立ち上げら
れた。LHCの開始時には、LCGは毎年、CD-ROMを重ねて20kmの高さになるほどのデータ
量を取り扱わなくてはならない。2003年にはEUが財政的に援助するEGEE(欧州e科学グ
リッド化計画)が立ち上がった。LCGチームは、運転可能なe科学グリッドの最初の具体的
な例となり、EGEEの試金石である。

(3)LHC加速器
2003年には幾つかの重要な段階(マイルストーン)を成功裏に通過した。最初のリン
グ8分の1周分の双極電磁石が完成し、入射ビームラインの第1番目のマグネットが12月
17日に据え付けられた。2004年の早い段階で、LHC自身の最初のマグネットが据え付けら
れる予定である。全般的には計画のコストは安定しており、スケジュールも変更なく、2007
年4月には最初のビームが回り、6月には最初の陽子・陽子衝突を実現する予定である。 

2.理事会の概要
(1)所長からの現状報告(議題5)
マイアニ所長から、LHC計画が研究所の予算の80%以上を占めている状況の中にあっ
ても、固定標的実験のプログラムにおいて、(長い間科学者は、3個より多くのクォーク
から構成される奇妙な粒子は存在しないと信じてきたがが)4個のクォークと1個の反ク
ォークから構成される新しい奇妙な粒子が、NA49実験で観測されたことを画期的な成果と
して取り上げた。
また、加速器の研究開発でも2003年はかなり注目すべき成果があった。例えば、CERN
のコンパクト線形加速器(CLIC)の研究では厳しい位置の安定性が要求される。2003年の
テストではちょうど0.5ナノメートルの位置安定性を達成し、これは地球上で最も安定な場
所の一つを実現した事になる。
 
(2)LHC計画の現状報告(議題6)
  マイアニ所長より、前日の理事会委員会における事務局からの報告内容に沿った説明
がなされ、結論として「本年はLHC計画の進展のために大変によい一年であった」旨述
べられた。

(3)理事会委員会の見直し(議題17)
  CERNにおける意志決定方法の在り方、理事会と各種委員会との役割分担等について
は、理事会の効率性と存在感の増大、意志決定初期の段階での適切な検討の場の必要性、
十分な検討時間を確保できる審議スケジュールの確保、各種会合間での重複の排除等の
理由から、2002年6月以来検討されてきたところであるが、本理事会に本件を審議
してきたワーキンググループから、
(イ) 理事会委員会を発展的に解消し、当該機能は理事会がこれを承継すること、
(ロ) これに伴い、理事会における会合の方式を
  (ウ)長期的な展望に基づく実験計画や財政委員会に関する事項の審議・決定を行
う「Restricted Session」(非公開) 
  (エ)主に役員人事の選挙等を行う「Closed Session」(非公開)
  (オ)(ウ)(エ)以外の事項全てを審議・決定を行う「Open Session」(公開)
   の3種類とすること、
(ハ) この改正を2004年1月から施行すること
との提案が理事会に対してなされ、全会一致で可決された。
 なお、LHC計画は上記(2)(ロ)(オ)において審議され、日本その他の関係オ
ブザーバー国は、従前の理事会委員会同様出席を認められるものである。
 
(4)CERNの新しい組織 
   理事会は、これから着任するロバート・エイマー次期所長によって提案された新し
  いCERNの組織構造を正式に承認した。2004年1月1日より研究所の重役会は、主任行
政官としてエイマー(Aymar)博士(フランス)、主任科学官としてヨス・エンゲレン
(Jos Engelen)博士(オランダ)、主任財政官としてアンドレ・ナウディ氏(スイス/
イギリス)で構成される。 

(5)その他
   本理事会をもって、任期を満了し退任するマイアニ所長に対して多くのメンバー国
及びオブザーバー国代表から、困難な時期をくぐり抜けCERNを導いてきたことに
対する謝辞が述べられた。我が方(近藤教授)からも、マイアニ所長が日本とCER
Nとの協力関係の強化に貢献されたことについて謝意を表した。      (了)