2001年10月16日
LHC完成のためのコストのレビュー
9月19-20日に開かれたCERN財政委員会と理事会委員会で、CERN執行部はLHC計画を2006年まで完成させるために必要なコストのレビューを発表した。この文書は、これらのコスト評価のもとになる背景と経過と事実を記述するものである。この文書は、全てのCERN職員、ユーザーおよび協力研究機関のために情報を提供するためのものである。
背景
LHC計画は、加速器と実験場を完成させるために26億スイスフランの物的予算でもって1996年に承認された。さらにLHC実験のためにCERNが貢献する予算は2.1億スイスフランであるとされた。計画に関係するその他のコスト、すなわちLEP加速器の解体、LHC入射加速器の強化とアップグレード、マグネットの開発、クライオジェニックスと真空システムなどのコストは、2009年までのCERN予算の中で吸収するものと理解された。計画の中で予期しない展開のための予備予算は計上してない。
コストのレビュー
1999年と2000年の理事会では、それぞれが異なる領域でのコストの超過は発表され、同時にCERNの執行部はLHCの全体のコストのレビューを準備してきた。測定器のコストと、LHCから出てくる膨大なデータ量に合うような計算機のインフラに関しても、2000年に相当なレビューが行われた。
2000年の終りに研究所のプランを支配した中心問題は、LEP加速器の運転を2001年を通して継続するかどうかであった。もしLEP実験を継続する決定をしておれば、LHCの最終コストに重大な影響を持つことになったであろう。従って、LEPを閉じるかどうかの困難な決定がなされるまでは、LHC加速器の最終建設コストの信頼できる評価は不可能であった。
2001年の早期に所長は加速器コストの全体レビューを発足させ、全てのLHCに関係するグループにLHC完成に必要なコストを正確に提供するよう求めた。LHC計画のコストの主要な要素は、1236台の超伝導マグネットの組立てと付随するクライオジェニックスの最終価格である。それらの契約の最終入札は2001年の8月に行なわれ、今現在もまだ交渉中である。
数値
事態を明確にするため、9月に財政委員会と理事会委員会に提出した数値をここに引用する。11月の財政委員会に出す最終数値は現在準備中であるが、単なる小さな変更にとどまるであろう。
LHC計画のコスト増加(百万スイスフラン)
計画 |
1996 予算 |
コスト増加 |
2001 全予算 |
LHC加速器と実験場 |
2600 |
480 |
3080 |
測定器へのCERN分担 |
210 |
50 |
260 |
コスト増加の主要部分は、マグネットの組立て、土木工事、インフラ構造と据付のための外注、である。
他に当初の予算枠に計上されていなかったLHCの主要な部品もあり、CERN予算の中で吸収されなくてはならなかった。たとえば、超伝導マグネットの技術開発とその試作品には1.5億スイスフランの経費がかかった。
さらに、LHCの計算機ニーズを解決するための革命的な解決策のグリッドのセンターとしてのCERNの計算機インフラには1.2億スイスフランがかかる。
最後に非加盟国からの貢献額で確定したものは1996年に期待された目標より5千万スイスフラン少なかった。
ここで重要なことは、上記のコストは直ぐ支払わなければならない請求書ではなく、プロジェクトを完成するための全超過コストであるということである。今のところ、これらの費用をCERN予算から支払う期間は1996年から2009年に設定されている。
上記のコストの多くは1996年に予想するのは困難であった。しかし同時にそれらは、この技術的には大変難しいプロジェクトの完成には欠かせないものである。
表に計上されたコスト増加は全体コストの19%超過に相当する。これは、多くの国および産業界と複雑に関係しかつ10年以上の期間にわたる他のプロジェクトと比べても、そんなに悪くはない。しかしながら、このパーセンテッジと1996年には予期されなかった他の経費を合計すると、多くの金額になる。追加資金を提供するためには加盟国政府と財源機関にとって、大変な努力を必要とするということを認識している。
将来
理事会はCERN執行部に対し、2001年11月6日の財政委員会にこの予算の危機に対する財政および行政面での対策を含むシナリオを提出するように求めた。この文書は現在精力的に準備されており、計画の長期にわたる安定性を確保するための以下のような項目が必ず含まれることになる。
1.
内部組織と節約
2006年の計画完成までの期間は今では短い。従って、予算執行の進行に対してただちに対応できるような支出モニターと予算コントロールの新しい方法を確立する必要がある。LHCに関係しない活動はスローダウンするか可能なら停止するという議論を踏まえて、研究所の全ての部門において大きな耐乏命令がなされるであろう。
2.ローンの返還期限の延長
当初から(ローンの返還)期間はLHCの可能な調整しろであるとして認識されてきた。1996年に立てた計画では、通常の予算内で支出のピークを吸収するためにローンが必要であると予想していた。ローンの返還期限を2009年以降に延ばすことによって、追加コストの一部はCERNの通常予算で吸収することができる。
3.加盟国による追加援助の可能性
CERN執行部は、とくに1996年の時点では予見できなかった支出に対して、追加の援助の可能性があるか調査するように加盟国にお願いする。次の段階として11月の財政委員会会合にてCERN理事会および代表者と議論し協力をお願いする。CERNのいろいろな科学委員会や政治委員会による忠告や立案によってはじめて解決策が見つかるであろう。
結論
LHC計画における技術的な基礎は非常にしっかりしている。多くのいろいろな技術的な部品製造や加速器の完成に向かって平行に走っているプログラムは非常に順調に進行している。これはCERNおよび協力研究機関の人々の能力と協力のおかげである。これですべてなにもかも明らかにしました。当初の予算からコストは増加しましたが、コントロールし切れない程ではありませんし、同程度の規模の科学プロジェクトと比較しても順調といえます。
1996年のLHC計画が承認された時に決められたCERN予算と職員数の削減の影響を受けて、CERNがこのコスト増加を吸収する能力はかなり限定されたものです。加盟国の政府と財源機関による支援が解決のために不可欠です。
火のない所に煙は立ちません。研究所の執行部は現状の事態を扱ったために非難にされていますし、かつこのことから学ぶことがあります。計画の財政的な経過をより透明に開示し、執行部による理事会メンバーとCERNの職員により良いコミュニケーションをとることによって、コスト増加の発表が引き起こしたショックは大方は和らげられます。
これは再びおこってはならない。CERN職員の動機と能力の上に立って、加盟国の政府と科学界の支持を得て、このLHCというユニークな科学上の大事業のチャレンジは成功する、と我々は確信しています。
ルチアーノ・マイアニ