Date: Fri, 23 Jul 2004 23:51:25 +0900 From: TANAKA Reisaburo Reply-To: atlas-japan@ml.post.kek.jp To: atlas-japan@ml.post.kek.jp Subject: [atlas-japan:00712] Physics at LHC (Vienna) 報告 ( その2) アトラス日本グループの皆様、 7月13日−17日にウィーンで開催された「Physics at LHC」ワークショップ 物理の報告です。 http://wwwhephy.oeaw.ac.at/phlhc04/index.html トラペンは、http://agenda.cern.ch/fullAgenda.php?ida=a042573 に全部載って います。 全般にLHCでの物理はよく研究されてきており、発見モードのみならず(精密)測定 モードの議論もされている。LHC実験初期のHiggsやSUSY粒子の発見競争における物 理解析で実際に問題になるのは検出器の理解であり、Fabiolaのトークはこれを念頭 に置いたものだった。ジェットのエネルギー・スケールやエネルギー分解能、bタグ やτタグ、ミッシングEt、PDFを、実際のデータW/Z+ジェットやトップなどでいか にきちんと研究して、他のグループの追従を許さない解析技術やアイデアを持って いるかが鍵となる。 日本では、HERAやTevatronに参加しているグループもあるので、これらと連携して 物理解析の研究をしておかないと、LHC実験が始まったときヨーロッパや米国の百戦 錬磨の連中の競争に参加できないと感じた。またHiggsやSUSY、BSMシグナルの発見 から、その背後にある理論の解明には、実験屋と理論屋の協力が不可欠である。 日本グループでは多くの人が汗を流して検出器の建設に多大の貢献をしてきたが、 LHC実験開始3年前となった今日、実験データを使った検出器のコミッショニング や物理プロセスの再構築の研究が物理解析でもビジビリティーを出すためには必要 であり、これらの活動を系統的にスタートさせる時期だと思います。 以下、物理を全部解説するのは不可能なので、印象に残った点を列挙します。 ------------------------------------------------------------------------ 【Higgs】 ○ 最新の2ループまで入れた理論計算では、MSSM Higgsで一番軽いのは150GeV以下。 ○ 4年前に終了した実験なのにLEPのHiggsのレビューがあった。L3の同じ図が 2枚あって、OPALの結果が示されなかったのはご愛嬌か? ○ Tevatronは順調で、夏までに400pb-1蓄積。ジェットのエネルギー・スケール、 エネルギー分解能、bタグやミッシングEtの研究がまだまだ必要。bタグの質問が出 たが、まだzのアラインメント中のため3Dタグはやっていないはず(CDF)。今後高 ルミノシティーになったとき、検出効率やfakeタグがどうなるかの研究も必要。2009 年までに8.5fb-1(デザイン)貯まれば、5σで120GeVまでのHiggsを発見可能。4.4fb-1 (ベース)貯まれば、130GeVまでexclude可能。うまくいけば2008-9年頃LHCとバトルが 可能? ○ Diffractive Higgs生成により、missing massでHiggs発見が可能との話もあった。 質量分解能1GeV。これでHiggsが見つかるんだったら、高エネルギーやめてやる、という人もいます。それにしても、会議のサマリートークでもDiffractive物理が入っているし、なんでこんなにポピュラーなんだろう? ------------------------------------------------------------------------ 【SUSY】 ○ よく議論されたのは、(C)MSSM/mSUGRA、ときどきGMSB、少しAMSB。RPVはダークマ ター(DM)を予言しないが、WMAPによりコールドダークマター(CDM)の存在が確認さ れたので、もうはやっていない。 ○ 最もよく引用されていたのは、J.EllisらのWMAP衛星によるSUSYコールドダークマ ター(neutralino,gravitino, axinoが候補)への制限(hep-ph/0303043)だった。 mSUGRAでのm_1/2 vs m_0平面でほとんどexcludeされている。コメントとして、lower boundの制限は曖昧で、実はバンドはもっと広いという意見があった。 ○ 川越、野尻、久野氏らの論文やGMSBの結果についてもよく引用されていた。GMSBの アトラス検出器の特性を生かした解析は面白い。 ○ SUSYでのCPの破れにはEDMから厳しい制限が付いているが、HiggsセクターでのCPの 破れの研究がなされている。また、レプトン・フレーバー・バイオレーション(SLFV) の研究が広まっている。 ○ 加速器実験からの制限は、今でもLEPが主である。Tevatronからは、GMSBでNLSPニ ュートラリーノ質量は、105GeV以上の新しい制限を付けている。 ゴールデンモードで の3レプトンによりmSUGRAの新しい領域がもうすぐ開拓される。 ○ LHCでは、SUSYがあれば発見は一瞬。最近では、パラメーター測定の研究が始まっ ている。SUSYがあればどのシナリオなのか、トップダウン型(ATLAS TDR)やボトムア ップ型(Sfitter(Peter Zerwasの息子Dirk Zerwasがやっている。ALEPHで一緒に仕事し た)、Fittino, SPAプロジェクトなど。日本でもこの研究は進めるべきではないだろうか。 ------------------------------------------------------------------------ 【Beyond SM】 ○ Lykkenが理論のレビューをした。余剰次元(ED)モデルは、ADD, RS, UED(universal extra-dimension)などいろいろ。多くがモデルではなく、シナリオだと指摘。SUSYには ベンチマークがあるが、EDにはないのが問題。標準モンテカルロもない(作れるのかな)。 最近AMEGIC(SHERPA一派ですね)にADDモデルのファインマン・ルールが入ったそうです。 EDの自動計算MCを目指している? ○ LHCでのサーチは、ADDやRSモデルによるいつもの探索の話。ADDモデルのパラメーター の決定の話もあったが、LHCだけで決定するのは、ほぼ不可能なようだ。LCが必要。 ○ EDモデルでGraviscalar(スピン0)粒子の探索や、山村、田中(純)氏らによるブ ラックホール探索の紹介があった。 --------------------------------------------------------------------- 【SM】 ○ Langackerが理論のレビューをした。最大の興味は、ニュートリノがマヨラナか ディラックタイプどちらなのか。ダブルβ実験がいろいろ提案されているが、質量の パターン(3−2−1)によっては見えない。FCNCは、第三世代の遷移が大きいが、 第一、二世代のほうが感度があるかも(MEG@PSI, PRIME@JHF)。 ○ SMの物理は地味だが、検出器のコミッショニング、キャリブレーション、PDFの 測定等非常に重要だ。SMプロセスをいかにちゃんと理解するかが、新粒子発見の鍵で ある。 ○ Tevatronでは、QCDプロセスをJets, photon, W/Z+Jets, heavy flavorsを使って 研究。Underlyingやミニマムバイアスの研究も進んでいる。NLO/NNLO計算のテストも。 QCDの知識は、LHCの物理のためとても重要。 --------------------------------------------------------------------- 【B物理】 ◯ sinΦ2は、BelleとBaBarのΦ+Ks測定での差が2.6σと近づいている。三田さんは 七夕の彦星と織姫に例えていた。「3σ効果の半分は消えてなくなる」Yang ◯ 三田さん(愛称はTonyらしい)のトークが面白かった。いろいろ放言をしてた。 あとから大丈夫ですかと聞いたら、「構わん」とのお達しだったようだ。  ※ BelleグループからΦKs発表の前に意見を求められ、「ユニタリティー条件を 満たさないから、量子力学を破っている」と答えたが、Belleグループは発表してし まった。  ※ KEKでは、年間80M$予算のうち50M$をKEKBで使っている。これではLCの R&Dに金がない。戸塚機構長は、「Super-Bは世界で一台」と言っている。合理的だ。 日本の次期主幹計画はLC。LCは、日本人一人当たり50ドルで出来ると言っているが、 国家予算の赤字は、一人当たり7万ドルだ。我々は、痛みを分かち合う前にリタイヤ するが(笑)。  ※ 一番良いのは、KEK/SLACでジョイントSuper-Bをやることだ。BaBarがBelleに 加われば金が出る(逆でも)。  ※ Super-SuperBのルミノシティーは、10^34でなくて10^43を目指せ。出来るはずだ。 BsのCPVなどやる。 --------------------------------------------------------------------- 【Cosmology】M.Turner ○ NSFのアシスタント・ディレクター。 ○ DOEが「Quantum Universe」の冊子を作成している。http://www.science.doe. gov/hep/index.shtm から。 ○ LHCと宇宙物理学の相補性を強調。ダーク・マターとLHCでの発見、インフレ ーションと基本スカラー粒子の発見、宇宙での加速機構と超対称性理論、時空と 余剰次元の発見。 ○ よく分からなかったが、ダーク・エネルギーを探る実験がいろいろと考えられ ている。blueshiftとredshiftの効果の違いをみるSachs-Wolfe効果を利用したものなど。 --------------------------------------------------------------------- 【LHC最初の一年】F.Gianotti ○ 実験の現実的なシナリオを示した。2007年夏に衝突だが、最初の年のルミノシ ティーは、1-10fb-1と予想。 ○ 検出器のステージング(ピクセル3→2層)により物理に多少の影響はあるが、 主にBの物理とHLTに影響。 ○ 検出器のコミッショニングがいかに大変か、H→γγを例に示した。たとへば、 Liq.Arではエネルギー分解能の定数項を0.7%以下に保つために、鉛板を10μmの 精度で作った。Z→e+e-での較正も必要。ちなみにCMSのPbWO4は、クリスタルと 読み出しAPDが共に数%の同じ傾きの温 度係数を持つために、温度コントロールが大変です。クリスタルとAPDの温度係数 が逆だったらすばらしいのに!さらに光量が被爆放射線量に依存するという話も あって、定数項を1%以下に保つには非常な努力が必要だと思われる。 ○ SUSYの発見は容易だが、質量測定には1年かかるだろう。横方向の質量分布 からSUSYの質量スケールが20%の精度で分かる、にはA.Blondelからmissing Et 分布のピークだけからなんでSUSYだと分かるんだ?ときつい質問が飛んでいた。 余剰次元の発見も同じことだ。Missing Etの較正には、E→ll+jetsなどを使うが これらの実験手法の開拓が競争の勝負の分かれ目ですね。 ○ 軽いヒッグスは、最初の1年では難しい。H→γγ、ttH, VBF(H→ττ)の 会わせ技でいくしかない。すべて低トリガー・スレシュホールド、バックグラウ ンドの1−10%レベルでの理解が要求されるので大変だ。 ○ MSSMヒッグスは、A/H→ττやH±→τνが感度があるが、τ-ID(bタグも) は最初の1年では難しいだろう。A/H→μμは易しい。 質問 Q)SUSYのシナリオ(EWSB)はすぐに描けるのか?    A)時間がかかる。実験屋と理論屋の協力が必要。← 日本でもやるべきだ と思う。    Q)内部飛跡検出器が動かなかったらどうするのか?    A)ジェットの物理をやる。トップは見れる。CMSのピクセルはパイロット ランのあと入れる。 --------------------------------------------------------------------- 【Beyond LHC】A.Blondel ○ CERNのニュートリノ関係のプロジェクトを紹介。J−PARCにならって、2.2GeV, 2x10^14/pulseの陽子超伝導ライナック(SPL)をCERN第二食堂脇に建設するR&D をやっている。 βビーム、ニュートリノ・ファクトリー、ミューオン・コライダー などを紹介した。LHC完成後の予算を考えている。LHCアップグレードは、2014年頃?  レポート「ECFA/CERN Studies of a European Neutrino Factory Complex」Ed.: A.Blondel et al. , CERN 2004-002が出ている。 ○ ニュートリノ振動などレプトンセクターでのCPの破れの研究は、エネルギー フロンティアのLHCやLCと相補的で、全く違う物理だと強調した。 ○ CLICは?との質問に、2009年のCLICの状態が2000年のTeslaの状態と同じ、予 算は2016年以降だろうと回答。CERNの次期計画はニュートリノだと言わんばかり だったが、どうなんだろう。 --------------------------------------------------------------------- 【サマリートーク】C.Quigg ○ Tevatron加速器が7/16に最高ルミノシティーを記録した、でまず拍手。 L=1.03x10^32cm-2s-1。陽子・反陽子衝突型加速器で初めて10^32を超えた! ○ オーストリアを代表する物理学者として、Victor Franz Hess(初めて宇宙線を 観測 )、Marietta Blau(核物理学)、Wolfgang Ernst Pauliを挙げていた。さすが にサマリートークする人は、教養があるたい。 ○ SUSYが1年で見つかると思う人、と手を挙げさせたら3−4割くらいだった。 少ないな。 ○ Hyper-unilateralism(超単独覇権主義)はダメだと警告。CERN/ECFA/EPSに将来 計画を立てるにあたってSnowmassのように外国からの参加を受け入れるよう勧告。 米国にも同じことが言えると思うが。 ○ Tevatronに学べと強調。Topをツールとして使え。以前同じことを言ったら、 KEKの岡田さんから、「はやくHiggsをツールとして使えるようになって下さい」と 言われた。それは2010年以降でしょう。 --------------------------------------------------------------------- 次回は、2005年7月11日〜16日、ポーランドのKrakowです。M.Turalaらが主催。今 度はショパンの国ですね。 以上、 田中(礼)