Date: Fri, 16 Jul 2004 23:03:15 +0900 From: TANAKA Reisaburo To: atlas-japan@ml.post.kek.jp Subject: [atlas-japan:00708] Physics at LHC (Vienna) 報告 ( その1) アトラス日本グループの皆様、 涼しい(スンマセン)小雨模様のウィーンから、暑中見舞いを申し上げます。 7月13日−17日にウィーンで開催されている「Physics at LHC」ワークショ ップ前半の報告です。 http://wwwhephy.oeaw.ac.at/phlhc04/index.html 昨年はプラハで開催されたワークショップですが、今年はパラレルセッションも企画されています。 プレナリーは、ある程度名前を知られた物理屋。パラレルは若者中心の発表だが、発表者を集めるの に苦労したよう。参加者は、登録が全部で187名だが、常時これだけ参加している訳ではなく、 100−150人程度。パラレルになると30人位に人が減ってしまうことがあるし、内容も寄せ集め の感があるので、全部プレナリーのほうが良かったかも。発表のレベルは、ピンからキリまで。液晶 プロジェクターで明るいグリーンは見えないので使うのを止めましょう。 日本からは、浅井、山下、田中(礼)、川越、神前、岩崎の中年(または青年か壮年)6名が参加。 発表は、川越氏のみ。この他に日本からは、名古屋大の三田さん、プラハでポスドクをしている 新井君(top spin corr.)、国士舘大の関口さん(Lattice QCD)。この種のワークショップは、違う実験 グループの人と話すチャンスです。小生は、昔CMSで一緒にSPS−H4ビームテストをやっていた 仲間に7−8年ぶりに会ったりして、懐かしかった。 物理では、あと4−5年でLHCでの物理が世界を席巻することは十分に認識されており、LCだけで なくスーパーB推進派もLHCとの相補性を盛んに強調していた。研究会もCERN-DESYワークショップ ( http://www.desy.de/~heralhc/ ) やFNALでのTeV4LHCワークショップ ( http://conferences.fnal.gov/tev4lhc/ ) など研究連携が深まっている。日本でも、研究会をやって単発の花火を打ち上げるよりも、実質的な ワーキング・グループを日本でも結成してはどうかと思います。たとへば、フランスでは従来 GDR(Groupement de Recherches)という理論・実験家のグループを作って研究してきましたが、 最近ではヨーロッパに拡大してEuroGDR( http://susy.in2p3.fr/EuroGDR/General/index.html)が結成 されています。J.F.GrivazやA.Djouadiに聞いたら、これはSUSYだが他にもグルーがいろいろある、 先週会合があってこれから新たに4年間計画でやることが決まったそうです。日本の理論家の人も LHCの重要性を認識し始めてくれたようですので、J−GDRはどうかと思います。 【会場】(にわか勉強)  ウィーン中心部のオーストリア科学アカデミーで、1756年に建てられたもの。「太陽の沈まぬ帝国」 ハプスブルク家の女帝マリア・テレージアの頃建設。天井いっぱいにフレスコ画が描かれた部屋で、 四方に神学(Theology)、医学(Medicine)、法学(Jurisprudence)および哲学(Philosophy、科学を 含む)が描かれています。日本だと青龍、白虎、朱雀、玄武。。。ちょっと違うか。川越氏撮影(7/16)の 哲学(科学)部分のフレスコ画の写真を添付しています。時計、地球儀や望遠鏡が、描かれています。 「CAVSARVM INVESTICATIO」とラテン語が書かれているが、意味は調査中。 物理関係のアカデミー会員に、 Christian Doppler、 Ludwig Boltzmann、Victor Franz Hess(宇宙線)。 さすがにヨーロッパは伝統が違うばい。興味のある人は、http://www.oeaw.ac.at/english/home.html へ。 初日の夕方に市庁舎でレセプションがあり、会議2日めの夕方にソーシャル・イベントとして、この会場で コンサートがあった。モーツアルトやフランスの作曲家による室内楽など。アンコールは、ウィーンフィル の舞踏会の最後に演奏されるとかいうフランツ・レハールのワルツ「金と銀」でした。後日、参加者にこの 演奏会を録音したCDが無料で配布された。 ------------------------------------------------------------------------ 以下、まず加速器と検出器の簡単な報告です。トラペンは、次を参照してください。 http://agenda.cern.ch/fullAgenda.php?ida=a042573 【LHC加速器】J.Engelen ◯ ルミノシティーは、最初は10^33cm-2s-1で、数年かけて10^34にする。問題は大きな蓄積エネルギー  (350MJ)と電子雲効果(SPS実験で数日運転で問題ないことが分かったはずでは?) ◯ 実験施設では、アトラスでインストールが始まった。CMSには10月下旬にホールを引き渡し。 ◯ マグネットは、ヘリウムリークが見つかったりしたが、ケーブル生産は順調。コミッショニングに   エキスパートが必要で、世界中のラボにコンタクトしている。 ◯ 陽子・陽子散乱を超前方で測定するTOTEM実験のLoIが出た。日本からは、名古屋大の村木グループ   が入っている。最高エネルギー宇宙線のキャリブレーションのため、LHCでの実験の提案も出している。   理研がALICE(Heavy Ion)に入るかもということで、あちこちに日本グループの名前が出た。 ------------------------------------------------------------------------ 【アトラス実験】M.Nessi ◯ トロイドは、熱シールド問題のため、インストール予定に6ヶ月の遅れが出て、全体に影響している。 ◯ ソレノイドは、最近8.2kAでの運転に成功した。エクセレントという評価。 ◯ ミューオンの完成度は、MDT(1088モジュール)88%、CSC(32モジュール)100%、   RPC(990モジュール)62%、TGC(3575モジュール)87%で、RPCが一番遅れている。   読み出しエレクトロニクスの遅れも問題。 ◯ カロリメーターは、液体アルゴンEM, Hadron Endcap, FCALすべて完成。アセンブリーの段階。 ◯ 内部飛跡検出器は、ピクセルが60%センサー生産したところ。バレルSCTは、80%モジュール生産。   8月下旬には終了予定。エンドキャップSCTは、2業者のうち1つに問題があった。モジュール生産が   始まったばかり。Aサイドのアセンブリー予定がクリティカル。TRTはフレキシブルWEBに問題があった。   前方ホイール生産が、クリティカルである。 ------------------------------------------------------------------------ 【CMS実験】A.Ball ◯ 現在36カ国、153研究機関・大学、1976人。 ◯ 地下ホールで電磁カロリメーターの一部とシリコンをインストールする以外は、地上で15パーツを   アセンブルして、それぞれ1週間かけて下ろす。最大2000トン。地下ホールは、6週間の遅れ。   3交代で200人が働いて遅れを取り戻した。まだ天井部分のコンクリートを打っている。   ◯ バレル・ヨークはOK。ソレノイド・コイルは、2/5がCERNに到着。2005年夏にマグネットのテスト。 ◯ ミューオンのバレル部Drift Tubeは、60%生産。HV関係が3000時間運転したら壊れる問題で遅れた。   RPCは、材料の問題のため2.5ヶ月の生産遅れ。CSCは生産終了。 ◯ 電磁カロリメーターは、バレルで61.2k、エンドキャップで14.7k本必要だが、40%しかデリバーされ   ていない。唯一クォリファイされて生産していたところから、今年始めにコストアップと生産率の低下   を要求された。交渉のため2.5ヶ月にわたり生産ストップ。4月から再開しているが、他の2メーカー   をクォリファイしようとしている。→ 教訓:某研究所の食堂みたいに競争させないとダメだな。   読み出しAPD(浜松)は100%デリバー。エンドキャップのVPTは、ロシアのRIEが作っておりまだ60%。   読み出しエレキは、0.25μmテクノロジーでデザインし直した。 ◯ 飛跡検出器は、ピクセルがプロトタイプの段階。シリコン・ストリップは、6-30%をアセンブルした。   2つのメーカーのうち、センサーの品質に問題があったメーカーから別のメーカーに生産を移した。 ◯ データチャレンジDC04をヨーロッパとFNALでやっている。 ------------------------------------------------------------------------ 【LHCb実験】T.Nakada ◯ 全般に保守的なデザイン。検出器の一部は、他の実験の技術から。 ◯ Beコーンのビーム・パイプが出来た。磁場は、・Bdl=4Tm(アトラスのトロイドと同じくらい)の常伝導   磁場(Al) 。系統誤差を消すため、すぐに磁場の向きを変えられるようにするため。 ◯ シリコン・バーテックスは、ビームから8mmまで。CMSのセンサーを用いる。 ◯ RICHは、Aerogel, C4F10, CF4を併用。HPD読み出し。 ◯ ECALは、Shashlik(懐かしいな)が完成。HCALタイルカロリメーターは、アトラスのと同じ。 ◯ ミューオンは、projective padのMWPCタイプ。 ◯ ルミノシティーは、10^33でなく2x10^32でよい。2007年に実験を始めるという固い決意を表明。 ------------------------------------------------------------------------ 【ALICE実験】C.Fabjan ◯ 全般にLEPのDELPHIのような野心的な検出器。77研究所・大学、937人参加。 ◯ 内部検出器は、シリコン+TPC+TRD。このうちシリコンは、ピクセル+ドリフト+ストリップ。   ドリフト型シリコン検出器は、世界初。ドリフト途中にシリコンに問題があると信号が見えなくが。。。 ◯ TOFにマルチギャップのRPCを用いて、50psの時間分解能を出す。TOFシンチレーターはもう時代遅れ? ◯ 電磁カロリメーターがないので、PbWO4クリスタル2万本を日本と中国が貢献できないか交渉中。   物理のためにはジェットエネルギーを測定したいので、どうしても電磁カロリメーターは必要。   CMSが開発したPbWO4は、ALICEやBTeVでも用いられる予定。 ◯ ミューオンは’pad chamber'。生産始まったばかり。 質問:Q)ATLAS, CMSの重イオン実験と何が違うのか?     A)ジェット中の粒子ID、低運動量領域でのトラッキングが良い。物理で何が違うのか答えて欲しかったが。     Q)トロイド磁石など他の解はなかったのか?     A)TPCを使うのでソレノイドが正解、と明言。 ------------------------------------------------------------------------ 以上、次回その2は物理編です。 田中(礼)