件名 : [atlas-japan:00369] Higgs working group meeting (Sep.4,2002) 「 Japanese day あるいは長い一日」 送信日時 : 2002年 9月 5日 木曜日 10:53 AM 差出人 : Junichi Kanzaki 宛先 : 皆様 本日、9月4日に CERN にて行なわれました Higgs working group meeting に 出席いたしましたのでその様子について報告させていただきます。 今回のミーティングはこれまでのように半日で全ての報告を終えるスタイルと は異なり、午前の部の通常のミーティングに午後の disucussion session を 加えると言う形になりました。最近発表の数も増え、半日ではとても消化しき れなくなってきたためと思われます。午前8、午後4の計12の発表の中で我々ア トラス日本グループからも5名の参加者が発表を行ない、全てのミーティング 終了後、convener の K.Jakobs 氏からも「とても活発に良い仕事をしてくれ ている」とお褒めの言葉をもらいました。 まず午前、午後を含めた全体の(我々の発表以外の)印象を最初にまとめさせて いただきますと: ・S.L.Wu 氏の率いるWisconsin のグループが本格的に参加してきた 合計3つの発表がありましたし、Wu 女史も始めてミーティングに出てこられ ていました。経験豊かな彼女の率いるグループであることを考えると、これ からますます活発に活動を行なっていくことと思われます。 ・全体的に解析が進んできていて、そろそろ fast simulation のみでは結論 が出せず、full simulation を用いたより現実的な検討が必要になってきて いる 特に lepton を用いた解析での jet からの isolation、あるいは minimum bias event からの charged track との accidental な overlap などが今 回、話題になっていましたが、実験開始までの時間を考えるとそろそろ本格 的に full simulation の新しい結果と fast simulation の結果をうまく融 合していく作業が必要な段階になってきていると強く感じました。次回の Higgs working group meeting (すぐ10月に行なわれる予定です)ではそのよ うな課題を検討するセッションを設けることになりそうです。 の二点が特に強く感じられた点です。もう一つだけ加えさせていただくと身贔 屓と思われるかもしれませんが: ・発表の内容としては日本グループの発表が他のグループより充実していた もちろん発表の技術としては英語も含めてまだまだかなわない点も多いと思 います。だからこそ内容のある発表を目指してきたわけですが、公平に見 て我々のグループの発表が最も物理としての内容のある発表だったと自信を もって言えます。 日本グループからは今回 皆川(筑波大) Vector bosonn fusion (VBF) での H -> gamma gamma 加藤(筑波大) WH 生成からの H->WW 崩壊(tri-lepton mode) の両氏が初参加で午前中の通常の Higgs working group meeting での発表。 また 松本(東大) ttH 生成からの H->WW 崩壊 竹本(東大) VBF での H->tau tau 崩壊 新間(筑波大) VBF での H->b b 崩壊 の三名がこれまで発表の継続であったため午後の discussion session にて発 表を行ない、計5名という大部隊での参加でした。 では全体のおおよその様子を時間的順序を追って概略を紹介させていただきま す。詳細については内容がウェブで公開されるはずですのでそちらをご参照下 さい。 ・M.Schumacher (Bonn) "Interpreteation of Higgs searches in the constrained MSSM using new calculations and benchmark scenarios" MSSM での最近の計算の結果を採り入れていくつかの(特に tth あるいは bbh など)プロセスの MSSM parameter space での discovery potential を 紹介していた。 ・C.Biscarat (Barcelona) "Status report on the MSSM Charged Higgs search in top decays" 軽い charged Higgs を top quark の decay から探索する。古い解析があ るがこれはその update。Charged Higgs の崩壊からの tau lepton が多く 観測されるが主に hadronic mode を中心に解析していた。解析そのものは まだまとまっていないが trigger 条件についての検討も行なわれていて、 かなり良い結果が得られそう。 ・P.Violini (Rome) "Status report on the bbh, h->mu mu" 主に MSSM で観測されることが期待されている bbh, h->mu mu channel に ついての報告 ・J.Cammin (Bonn) "Status report on the ttH, H->bb" 最近特に解析が活発に行なわれている ttH, H->bb についての報告。 Likelihood を用いて significance を上げようとしている。数字的にはそ れなりの結果が出ているが、やはり厳しい解析であることが伺われる。 ・B.Mellado (Wisconsin) "Neural Network based multivariate analysis of VBF H->WW->llpmiss for M_H=115-130 GeV" これが今回の発表では最初の Wisconsin からの発表者となったが、本来は 次の発表と順序が逆であったのに会場のプロジェクターのトラブルで先に話 すことになってしまった。今回の Wisconsin からの発表は同じ process に ついての三つの違った解析の発表であった。Neural net を用いた解析の紹 介であったが印象としてはいささか力ずく。最後の transeverse mass 分布 も見せなかった(見せられない?本人も見ていないそうだし、、、)し、これ で Higgs を発見した気になれるのだろうか? ・B.Quayle (Wisconsin) "Improvement VBF H->WW->llpmiss classical (cut) analysis for M_H=115-130 GeV" 本来はこちらが先だし順序としては自然。これまでの解析を改善しました、 という発表。Likelihood も使っていた。ただ cut の optimization がそれ ほど systematic に物理の内容を考慮して行なわれているようには見えない。 ・M.Minagawa (Tsukuba) "VBF process, H->gamma gamma" おそらくこのテーマについての発表は working group では初めて。どこか で簡単な検討をしていた人がいたはずだが、発表もノートも見ていない。軽 い Higgs が 30fb-1 以下で十分に発見可能。内容としてはあいまいな部分 が少なく良い仕事であるとの評価をもらえた。皆川さんは緊張していたと思 いますが、それでも落ち着いてはっきりした発表をすることができました。 実は浅井氏の情報によると Wisconsin は当初、同じ解析をこのミーティン グに間に合わせたいと言う希望を持っていたのですが、 CompHEP での aajj の event generation がうまくできずに断念したようです(浅井氏に技術的 な質問をミーティング後にしていたそうです)。次回は発表するそうですが 最初にここまでの解析を発表できたことは我々のグループの技術的な優秀さ もアピールできたと考えます。 ・Y.Kato (Tsukuba) "Improvements of WH->WWW in tri-lepton channel" Convener である Jakobs 氏の解析の改善を行なったというの発表。三つの ポイントのうち、新しい background の導入、lepton-missing transverse mass での selection については高い評価をもらえた。Lepton の jet から の isolation については full simulation も用いたより詳細な検討が必要、 との議論があった。加藤君はぎりぎりまで少数統計に悩まされ、すっかり魚 (Poission)嫌いに? 午前はここまで。皆川、加藤両氏は初めての発表であったのにも関わらず、落 ち着いてはっきり発表できました。内容がきちんと聞いている人に伝わったこ とは午前中の発表の中でも最後の二つがもっとも活発に質問もあったし、議論 も行なわれたことからわかります。(もちろん英語はもっと勉強しましょう)続 いて午後の discussion session。我々としては解析の発表はすでに以前のミー ティングで行なわれ、より細かい議論が大切と考えた三名に午後の発表をお願 いしました。午前より小さい部屋が使われ、より活発な議論が行なわれました。 ・K.Cranmer (Wisconsin) "Results of Implementation of Genetic Programming approach and Support Vector Machines in the analysis of VBF H->WW->llpmiss for M_H=115-130 GeV" Wisconsin からの午前の二つに続いた三つ目の発表。これも "Genetic Programming" という新しい解析手法の紹介。Neural Net ほどやみくもでは なさそうだが(個人的には若干興味があるのですが、ほとんど具体的なこと が理解できなかった)物理の内容よりもソフト技術の方に重きがおかれてい る印象。Karl からも今の段階ではまだそのようなソフト技術をいろいろ試 すのは、早いのではないかとのコメントがあり(他にやらなければいけない 課題がたくさんあるから)、議論がありました。 ・Y.Matsumoto (Tokyo) "Update of ttH -> WW channel" ttH, H->WW の解析の継続報告。新しい background を採り入れたり、いろ いろの event generation での生成断面積の比較を行なったり、評価された 点も多いが、lepton isolation への tarck の overlap の評価、また final state での Higgs mass の reconstruction など、これからの課題も 多かった。活発な議論が行なわれた。また頑張りましょう。 ・T.Takemoto (Tokyo) "Update of VBF H->tautau in lepton-hadron channel" 解析としてはほぼ終了していてなかなか良い結果が得られているのだが、 Montreal の Rachid 氏との解析の結果の食い違いが長い間、議論になって いると言う、いわくつきの解析。今回も我々の発表の内容としては十分理解 されたのだが、Rachid 氏も出席せず、肝心の部分についてはそのまま。竹 本君は都合により十分な準備時間がとれなかったのですが、頑張って発表に 間に合わせてくれました。 ・S.Shimma (Tsukuba) "Update of VBF H->bb channel" VBF での H->bb channel の解析。難しい解析の channel だが、VBF で全て の coupling measurement を cover するという解析の目標は十分理解され た。今後 high luminosity での解析が期待される。新間君は event generation も自分でこなせるまでになりました。Measurement の結果まで 発展させましょう。 以上で午後の発表が終りました。もちろん我々の準備が十分であったとは言え ない部分もありましたが、それでも我々の仕事についていろいろの議論が行な われたことは私としてはとてもプラスに評価するべきと考えています。午後は 活発な議論が行なわれ、今回発表された方々にはとても良い刺激になったと思 います。これをきっかけによりいっそうの解析の進展を希望します。 最後になりましたが、旅費のサポートから始まり、各測定器グループの方々の 御理解、そして直接、解析の指導にあたられた大勢の方、そして最後にはメー ルにて発表直前の励ましまでいただき、本当に大勢の方々の力に支えられて今 回の5名と言う人数の発表が出来たことを痛切に感じます。本当にありがとう ございました。発表された方はそれぞれ反省点も多く持っていることと思いま すが、それ以上に今回の発表がとても良い経験になったのではないかと信じま す。今後ともよろしくお願い致します。 神前