CERNプレスリリース PR23.03                2003年12月19日 CERN理事会は変化を宣言した: 20の加盟国の代表が科学政策と経理に関して決定を行う第126回目のCERN理事会が、今日 Maurice Bourquin教授の議長の下で開催された。去ってゆく所長 Luciano Maiani教授による 数年間にわたる活動のレビューや、CERNの新しい体制、創造力などが会合の主題であった。 LHCの状況報告 マイアニ教授はCERN理事会に対する発表を、LHC計画の包括的なレビューで始めた。アトラス・ CMS, ALICE, LHCbの実験は、すべて2007年のLHC開始の時に間に合うスケジュールに従ってい る。いろいろな困難に次々と直面しているが、これはこの科学計画が地上で最も飛躍的である ため避けては通れないことであr、実験チームはそれらの困難を越える努力をしている。「古 い心配が解決すると、また新しいものが現れる。しかし水平線上に確実に計画を停止するよう なものは見当たらない」とマイアニ教授は結論した。 LHC計算機に関しては、マイアニ教授は、国際チームがLHC計算機グリッドの第1段階(LCG-1) を成功裏に立ち上げたことに祝辞を述べた。LHCの開始時には、LCGは毎年、CD-ROMを重ねて20km の高さになるほどのデータ量を取り扱わなくてはならない。2003年にはEUが財政的に援助する EGEE(欧州e科学グリッド化計画)が立ち上がった。LCGチームは、運転可能なe科学グリッド の最初の具体的な例となり、EGEEの試金石である。 LHC加速器は、2003年には幾つかの重要なマイルストーンを通過した。最初のリング8分の1 周分の双極電磁石が完成し、入射ビームラインの第1番目のマグネットが12月17日に据え付け られた。2004年の早い段階で、LHC自身の最初のマグネットが据え付けられる予定である。マ イアニ教授は「この1年はLHC計画のために大変よい年であった」と述べた。全般的には計画 のコストは安定しており、スケジュールも変更なく、2007年4月には最初のビームが回り、6月 には最初の陽子・陽子衝突を実現する予定である。 この年の活動: この年の活動について、マイアニ教授は理事会に、LHC計画はすでに研究所の予算の80%以上を 占めていることを示した。それにもかかわらず、彼は固定標的実験のプログラムの全てを説明 し、(長い間科学者は、3個より多くのクォークから構成される奇妙な粒子は存在しないと信 じてきたがが)4個のクォークと1個の反クォークから構成される新しい奇妙な粒子が、NA49 実験で観測されたことをハイライトとして取り上げた。活動が制限されているものの、加速器 の研究開発でも2003年はかなり注目すべき成果があった。例えば、CERNのコンパクト線形加速 器(CLIC)の研究では厳しい位置の安定性が要求される。2003年のテストではちょうど0.5ナ ノメートルの位置安定性を達成し、これは地球上で最も安定な場所の一つを実現した事になる。 CERNの新しい組織 理事会は、これから着任するロバート・エイマー次期所長によって提案された新しいCERNの組 織構造を正式に承認した。2004年1月1日より研究所の重役会は、主任行政官としてエイマー (Aymar)博士(フランス)、主任科学官としてヨス・エンゲレン(Jos Engelen)博士(オラ ンダ)、主任財政官としてアンドレ・ナウディ氏(スイス/イギリス)で構成される。 エイマー博士のこれまでの経歴としては、プラズマ物理の基礎研究と制御熱核融合におけるそ の応用が主である。1977年にはTore Supra核融合計画の主任に任命され、1977年の設計から1988 年の運転までの指揮を取った。1990年にはフランス原子力エネルギー庁(CEA)の基礎研究の 主任に任命された。1994年7月には、国際熱核実験炉(ITER)計画の所長になり、2001年7月に はITERの国際チームリーダーになった。彼はLHC計画の企画に精通しており、1996年に計画を 評価し、計画承認の推薦を行った国際科学委員会の委員長を務めた。また2001年12月に理事会 によって設定されたCERNのプログラムをレビューする外部レビュー委員会の議長も務めた。エ ンゲレン博士は、オランダ国立原子核高エネルギー物理研究所 NIKHEF の前所長であり、ナウ ディ氏はCERNの現経理部長である。すべて5年任期の任命である。 エイマー博士は「新しい組織はCERNの現在の目的によく適応している。連続性を保証し、現在 の力の上に立つものである。」と述べた。現在の15部門はより少数の部門に再編され、安全・ 技術移転・広報を含む機能は、所長部門に移される。 CERN革新の球(ドーム) 12月12日のジュネーブ市によるCERNの新しい革新の球ドームの建設許可に続いて、理事会は建 築物のもともとの建築事務所Group H (スイス)との間に建築サービスの契約を、技術サービス についてはもともとの契約社である Charpente Concept(スイス)と、再組み立て工事はBois 産業組合と契約を結ぶことを承認した。この「革新の球」は、もとはスイスの2002年国際展示 会の大展示館であったが、来年に開かれるCERNの50周年記念会で中心的な役を果たすことにな る。2005年以後はCERNの新しい展示とネットワークセンターを収容することになる。 EIROフォーラムと欧州連合(EU) CERNはEUと長い間成果のある協力を行ってきた。1985年に、ECはCERN理事会のオブザーバーの 地位を承認され、1994年にはECとCERNの間で研究と技術開発に関しての協力を促進する合意協 定に署名した。そして今年はこの協力はさらに進み、EIROフォーラムの7部門が欧州の研究分 野を拡張することを約束するECとの意向声明にも署名した。マイアニ教授は「EIROフォーラム のメンバーは、EUの野心的なリスボンゴールに向かって協力することになる。」「我々は、力 強く永続する経済とともに、知識をベースにした社会として成長する欧州を築くことに最大限 にコミットするものである。」と述べた。 任期を終えるマイアニ教授にさよならを宣言するにあたって、多くのメンバー国ならびにオブ ザーバー国の代表は、彼が困難な時期をくぐりぬけてCERNを導いたことに祝辞を述べた。代表 の一人は、嵐の中にあって注目するほどの冷静さを所長は示し、研究所の職員は組織の本当の 強さと結束を示してくれた、と述べた。 年長スタッフの任命 Steve Myers(イギリス)は2004年1月1日から2005年12月31日迄の2年間、加速器とビームの 部門の部長に任命された。Philippe Lebrun(フランス)は同2年間、加速器技術部門長に任 命された。Paolo Ciriani (イタリア)は同2年間、技術支援部門長に、Wolfgang von Reuden (ドイツ)は同2年間、情報技術部門長に任命された。 Wolf-Dieter Schlatter(ドイツ)は2004年1月1日から2005年12月31日迄の2年間、物理部門 長に、Patrick Geeraert(ベルギー)は同2年間、経理部門長に、Werner Zapf(ドイツ)は 人事部長に2004年1月1日から暫定的に再任された。 Maximilian Metzger(ドイツ)は2004年3月1日から3年間、所長の代表秘書に任命された。Hans Hoffmann(ドイツ)は2004年1月1日から暫定期間を務める。 選挙 Enzo Iarocci(イタリア)が2004年1月1日から1年間理事会議長に選ばれた。イアロッチ教授 は素粒子実験や宇宙粒子物理に関する著書が多数あり、とりわけ1970年代後半に新しい型の粒 子検出器であるストリ―マー筒の開発において有名である。1980年代初めにはモンブラントン ネルの中で陽子崩壊の実験NUSEXに参加した後、イタリアのグランサッソ実験場での米国・イ タリア共同の実験MACROの共同代表者を務めた。1990-1996年はローマに近いフラスカッチ研究 所の所長として、粒子と反粒子の対称性を研究するために大変高い強度の電子・陽電子蓄積リ ングであるダフネ(DAPHNE)の建設に重要な役割を果した。彼は現在イタリア国立原子核素粒 子物理研究機関INFNの所長である。彼はMaurice Bourquin(スイス)が務めた議長を継ぐ事に なる。 Eivind Osnes(ノルウエー)は2004年1月1日から1年間理事会の副議長に選ばれた。 Janet Seed (イギリス)は2004年1月1日から1年間財政委員会の委員長に選ばれた。Martin Steinacher(ドイツ)は2004年1月1日から1年間財政委員会の副委員長に選ばれた。 Jo・ Feltesse(フランス)は2004年1月1日から1年間科学政策委員会の委員長に再選された。 Alain Blondel(フランス)、Peter Dornan(イギリス)、Rolf-Dieter Heuer (ドイツ、) Agnieszka Zalewska(ポーランド)は2004年1月1日から3年間の科学政策委員会メンバーに選ばれた。 Paolo Strolin(イタリア)は2004年1月1日から3年間の科学政策委員会メンバーに再選され た。 Fernando Bello(ポルトガル)は2004年1月1日から1年間の3者雇用条件フォーラム(TREF) の議長に選ばれた。 Jeffrey Down(イギリス)は2004年1月1日から3年間の会計検査委員に選ばれた。                     Renilde Vanden Broeck CERN広報室 (和訳:近藤敬比古(KEK))