国際先導研究 (課題番号:24K23939 研究期間:2024年度~2030年度)
この国際共同研究の重要性・面白さは何か(研究の目的と意義)
本研究のゴールは、現代の素粒子物理学最大の謎であるヒッグス機構の全貌を解明し、超対称性の兆候を掴むことで、真の物理法則の低エネルギー近似と考えられている標準模型の枠外の現象を発見することである。究極的な目標は、電磁気力、弱い力、強い力を統一的に記述する大統一理論などの、1015 GeV (1eV = 1Vの電圧で電子が得るエネルギー)以上のエネルギーでも成立する真の統一的な物理法則を構築することである。ヒッグス粒子は発見されたものの、その理解は限定的で、物質を構成するフェルミオンの世代構造の起源はおろか、ヒッグスポテンシャルの形すらわかっていない。そもそも、ヒッグス場が存在する理論的必然性もなく、素粒子間の相互作用がゲージ原理によって自然に理解できるのとは対照的に、ヒッグス場は「手で」理論に組み込まれている。そのため、発見されたヒッグス粒子とは別の種類のヒッグス粒子や超対称性が、新物理としてヒッグス場の背後に隠れているのではないかと考えられており、ヒッグス場の全貌解明は今後10年から20年に渡って素粒子物理学の中心的課題である。そこで本研究は、国際大型プロジェクトを主導できる人材を育成、かつ測定器技術開発を推進し、次期エネルギーフロンティア実験と目されるヒッグスファクトリーやさらにその先の計画を我が国が主導するための礎を築く。そのために以下の3部門の研究を推進する.
物理部門 劇的に向上する高統計データを用い、AI 等の活用で精度・信頼性を高めた物理解析を主導する。測定結果を、不定性の小さい理論予測と詳細比較することで、新物理の発見感度を上げる。
超伝導磁石部門 アルミ安定化NbTi 線材製造のための施設を作り、ノウハウを知る技術者との協働で、アルミ被覆工程を復活させる。その技術継承を図りつつ、ReBCOなどの新素材に対してアルミ安定化技術の応用を試みる。放射線耐性を評価しつつ、10Tを超えるモデル電磁石を開発・製造する。
検出器部門 モノリシックピクセルセンサー(MAPS) 開発では、詳細なTCADシミュレーションにより高放射線耐性とゲインを有するセンサー構造を追求し、試作品製造後は陽子とƒΑ線による照射試験から性能を評価する。機械学習特化処理の取り込みが進む先進FPGAを活用したトリガー処理ボードの技術開拓を推進し、その技術をMAPSに組み込むための検討を始める。
誰がこの国際共同研究を行うのか(優れたグループによる国際共同研究体制)
エネルギーフロンティア実験は規模の大きさゆえに国際協力が必須である一方、世界中から多くの研究者が参画するため、研究の主導権争いは熾烈を極める。よって、研究を主体的に進め、日本の存在感を保つためには、長期ビジョンに基づいた研究計画の策定と人材育成が必須である。
本研究では、LHC 実験を主導してきたメンバーが、真空を支配するヒッグスポテンシャルの謎の解明と、超対称性探索を進める。さらに、若手と外国人研究者を巻き込み、次世代測定器技術開発を行うことでLHC 高輝度化(HL-LHC)以降のエネルギーフロンティア計画において、我が国が世界をリードする。「物理」「超伝導磁石」「検出器」それぞれの部門において、次世代の主軸を担う若手研究者を配置する。 3 部門間の有機的な連携を保つことで、若手研究者は幅広い研究に触れる。研究代表者らは、豊富な国際的人脈を活かして国内外の若手研究者を取り込む。本プログラムにより国際的素養を有する若手研究者を輩出し、その若手研究者がヒッグスファクトリーなどの将来のコライダー計画を主導する。
どのように将来を担う研究者を育成するのか(人材育成計画の内容)
人材育成計画として、以下の2軸に立脚し、分野の将来を担う立体的な人材育成を掲げる。
【1】国際スクールの横断的開催や、若手が新技術に独自性をもって挑戦できる研究プログラムを通じた「世界最先端の技術に挑戦する研究者の育成」
【2】ものづくりから建設、新実験の運用までを幅広く経験し、多国籍の組織をリードする経験を蓄積する「最先端で活躍する素粒子実験研究者の育成」
現行の実験に囚われない長期的な視野で学生・若手研究者のキャリアに応じた段階的なガイドを充実させ、わが国が世界をリードする素粒子研究の将来を実現する。さらに、第3の【発展軸】として、次世代を牽引するグローバルな人材の育成プログラムを提案する。これは蛸壺的でない研究者育成、国際的素養をもつ広義の人材育成、国民全体の科学リテラシーの充実等、分野を越えた融合型の取り組みである。これら3 つの計画を通じて、将来の素粒子実験(ヒッグスファクトリー)を国際先導する優秀な人材を幅広く輩出する。研究計画と若手の役割を明確に対応させ,最先端の学術成果を最大化しながら,逐次発展的に活躍できる柔軟なキャリアパスを構築し,次世代ヒッグスファクトリーを牽引する真の国際人の育成を行う。