文部科学省科学研究費補助金特定領域研究(平成11年度〜平成16年度)

「アトラス実験」

陽子・陽子衝突によるTeV領域の素粒子物理

領域代表者:近藤敬比古(高エネルギー加速器研究機構)
2006.5.23(updated by T. Kondo)


[1] 研究の背景と目的

素粒子物理はクォーク・レプトン・ゲージボゾンを正確に記述する「 標準モデル」までたどりついた。しかしこの理論の基である「ヒッグス場」は未だ全く謎のままである。1TeVのエネルギー領域にはヒッグス粒子が最低1種類存在し、さらにフェルミ粒子とボーズ粒子の対称性に由来する超対称性粒子も存在すると予言されている。

1TeVエネルギー領域の実験は、欧州・日・米・加・露などが建設協力する 欧州合同原子核研究機関(CERN)の LHC(Large Hadron Collider)計画を通じて実現される。周長 27 km のトンネルに約2千台の超伝導マグネットを設置し、陽子ビームを7 TeV まで加速して14TeVの陽子・陽子衝突現象を実現する。LHC加速器の完成予定は2007年である。

ヒッグス粒子や超対称性粒子の発生を観測する大型国際協力実験装置「アトラス」の建設には33ヵ国の研究者が参加する。本特定領域研究に参加する日本の15研究機関からなる約50名の研究者グループは、1996年より、アトラス実験装置のいろいろな重要部分の設計・開発・試験・建設・据付・較正・試運転を担当する。また新しいソフトウエアー技術の導入を進め、シミュレーションを通じて予想される素粒子反応と物理の準備研究を行う。 

本特定領域研究は、素粒子物理のエネルギー領域を大幅に前進させる学問的重要度の高い研究であり、ヒッグス粒子の存否や超対称性粒子の探索などその実験の結果は、素粒子物理学に大きなインパクトを与え、本質的発展につながると期待される。


[2] 研究組織

  • 総括班X00:陽子・陽子衝突によるTeV領域の素粒子物理の総括:研究代表者 近藤敬比古(高エネ研)
    計画研究の活動を常時監視し、かつ適切な指導と連絡を行う。関係する諸外国の研究機関や研究者との連絡の元締めを行う。外国旅費は総括班で一括管理する。CERN・文部科学省・高エネルギー物理コミュニティとの連絡を密にする。研究の広報に努める。
  • 研究計画A01:ミューオントリガ−チェンバ−開発と建設:研究代表者 武田 廣(神戸大学)
    ヒッグス粒子の探索にはヒッグスの崩壊からのミューオンを確実に捉えるトリガー機能が不可欠である。そのために、装置の前後方にトリガー用のThin Gap Chamber (TGC) を約4000台 (総面積6000平方メートル) 設置する。日本とイスラエルが建設を担当する。本研究では約1100台のTGCを製作し,検査後にCERNへ輸送し,アトラス測定器への据付け・調整・試運転を行う。検出器は10年以上実験に使用されるため,故障率が低く信頼性の高いTGCが必要とされる。当初の3年間では,TGCの製作技術工程を確立(クリーンルーム整備,ワイヤー巻き装置改良,接着圧力コントロールの開発,カーボン電極塗布装置改良,ハンダ付け設備の整備,輸送・保管用架台の製作,量産工程の作成等)して量産設備を完成し,大量生産を開始する。また製造したTGCの各々の長期安定性や一様性の確認のために,宇宙線を用いた検査システムを神戸大学に構築する。

  • 研究計画A02:ミューオントリガ−電子回路の開発と建設:研究代表者 小林富雄(東京大学)
    4000台のTGCから出てくる約40万チャンネルの信号は、トリガー電子回路や読出し電子回路で処理される。日本グループが100%の製作を担当する。チェンバーの微小信号を増幅・整形するASD (Amplifier-Shaper-Discriminator)電子回路の開発は順調で最終バージョンが完成した。本研究では (1) ASD電子回路の量産と検査、 (2) トリガー電子回路の試作・試験・最終設計、 (3) 読出し電子回路の試作・試験・最終設計、 (4) チェンバーモニター用電子回路の試作・試験・最終設計、 (5) 最終バージョン電子回路を用いたフルシステムテストを行う。 平成15年中頃までに量産を終え、平成16年度内にすべての電子回路のチェンバーへの取り付けおよびチェンバーの実験ホール内据え付けを行う。

  • 研究計画A03:ミューオン飛跡測定用時間測定集積回路の開発と建設:研究代表者 新井康夫(高エネ研)
    ヒッグス粒子の崩壊などから生ずるミューオンは、40万本のドリフトチューブにより運動量と位置を精密に測定する。ドリフトチューブからの信号のタイミングは、250 psecの分解能を持つ時間測定集積回路 (TDC : Time to Digital Converter) で測られる。このTDCには、25ns毎のビーム衝突に対して不感時間無しで連続的にデータを取り、かつトリガー信号が来るまでの間のデータを保持し、データを圧縮して送りだすなど高度な機能が要求される。24チャンネル分の回路を1つの集積回路(LSI)に集積し、低価格化を計ると共に消費電力も抑える。LSIの開発と量産時用試験システムの開発を行う。10年以上にわたるLHC実験期間のガンマー線や中性子に対する充分な放射線耐性を持つことを確認する放射線試験を行う。

  • 研究計画A04:超伝導ソレノイド磁場内でのシリコン半導体飛跡検出器の開発と建設:研究代表者 海野義信(高エネ研)
    シリコン飛跡検出器は、超伝導ソレノイドのつくる磁場を用いて荷電粒子の飛跡と運動量の測定を行う。ヒッグス粒子や超対称性粒子は、孤立した電子・ミュー粒子・タウ粒子・Bクォーク粒子などの特徴あるイベントを発生する。それらを捕えるには二次崩壊点の同定や運動量の測定が不可欠で、シリコン半導体飛跡検出器が威力を発揮する。そのための放射線耐性をもつシリコンストリップ検出器と、電子回路との組合せモジュールを開発する。日本分担の690モジュールの製造と全量検査、モジュールを高精度で据え付ける円筒シリンダー(直径90cm、長さ1.6m)の開発・建設を行う。   シリコン飛跡検出器などが置かれる空間に2テスラの磁場を作る超伝導ソレノイド(直径2.4m、長さ6m)は、カロリーメターの内側に置かれるため物質量を極力少なくする。このためKEKで開発された高強度超伝導ケーブルを用いる。コイルはカロリーメターとクライオスタットを共有するため、米国チームとの連絡と協力を密にして進めていく。

  • 研究計画A05:デ−タ収集と測定器シミュレーション技術の開発と建設 :研究代表者 尼子勝哉(高エネ研)
    LHC加速器で生じる毎秒108個の事象の中から、重要な事象を選択的に収集・解析し物理結果に導く一連のデータ収集解析技術の開発および建設を行う。アトラス測定器からの毎秒 1GByte のデータを処理のために、高速ネットワーク技術を用いた並列データ収集システム「イベントビルダー」を開発する。高速イベントビルダーで収集された事象をオンラインならびにオフラインで処理(飛跡パターン認識、エネルギーの空間分布のパターン認識、粒子の種類識別など)するために、高度の信頼性を持つソフトウエア・システムが不可欠となる。これらのデータ解析や事象シミュレーションのプログラアは、世界に分散する多数の研究者が使用でき、かつ高信頼性が保持されなくてなならない。このために新しいソフトウエアエンジニアリングであるオブジェクト指向技術を導入する。

    [3] 研究内容

    (2002.9現在)


    [4]  研究成果報告書・発表・論文など

  • 1998.10:平成11年度発足特定領域申請書.pdf [6.1MB]
  • 2000.9:特定領域研究(B)に係る研究経過等の報告書.pdf(科学研究費審査会資料)
  • 2002.9:特定領域研究に係る研究経過等の報告書.pdf(科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金審査部会・理工系委員会審査会資料)
  • 2003.8:2003研究状況報告書.pdf
  • 2004.7:2004研究状況報告書.pdf
  • 2005.9:事後ヒヤリング説明書.pdf
  • 2005.10.21:事後ヒヤリング発表.ppt
  • 2006.May:最終成果報告書 ( 表紙目次と総括班, 計画研究A01, 計画研究A02, 計画研究A03, 計画研究A04, 計画研究A05, 申請書
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